昨年11月に本町において発生致しました大雨による災害で、町内の各所において土砂崩れや冠水などの被害が発生しました。幸いにも人的被害はありませんでしたが、多くの家屋や施設、圃場などが損壊する被害が発生し、今もなお復旧が完了していない箇所や、従前の生活や生業の再開が困難な方々がいらっしゃいます。
ここに改めて、昨年の大雨による災害の被害に遭われた方々に対し、心よりお見舞いを申し上げます。
本町では、引き続き損壊したインフラ施設等の早期復旧及び被災された方々の生活再建や産業活動の再開に向けた各種支援に全力で取り組んでまいります。
はじめに
令和7年第1回与論町議会定例会の開会に際し、ここに与論町の令和7年度一般会計及び各特別会計の予算案、ならびに関連議案についてご審議をお願いするにあたり、新年度の町政運営に臨む所信の一端を述べ、町民及び議員の皆さまのご理解とご支援を賜りたいと存じます。
令和6年は、依然として続くロシアのウクライナ侵攻や、悪化している中東情勢等を背景として、円安や物価高騰などの影響により我が国の経済情勢も先行きが不透明な状況が続く1年でありました。
紛争地から遠く離れた本町においても、世界経済の不安定化による物価の高騰などが地域の産業経済に影響を及ぼしており、事業者の経済活動や、町民の皆さまの日常生活を持続可能なものとするための施策が重要性を増す状況となっております。
このような経済状況の打開に向けて、我が国においては令和7年度予算編成に係る基本方針として、足元の物価高や賃金及び調達価格の上昇に対応しつつ、デフレを脱却し、新たなステージとなる「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への移行を実現することを目指して、物価上昇を上回る賃金上昇の普及・定着、地方創生2.0の起動、官民連携による投資の拡大、充実した少子化・こども政策の着実な実施など重要政策課題に必要な予算措置を講ずることとしております。
鹿児島県においては国内外の大きく変化する情勢の中で地域の活力を維持・発展させていくために「稼ぐ力」の向上やそれらの産業を支える人材の確保・育成、子ども・子育て支援施策の充実・強化などを重要施策として挙げております。
加えて近年加速化する少子化や能登半島地震を踏まえ「確かな安心、鹿児島」を目指して、子ども・子育て支援施策や防災対策の更なる充実・強化に取り組むこととされています。
これら国及び鹿児島県の施策動向を捉え、本町においてもこども政策や産業振興、防災対策など地域の活力の維持・向上や持続的な発展に寄与する各施策を展開してまいります。
また令和6年3月には、奄美群島振興開発特別措置法が改正され、奄美と沖縄間の航路・航空路運賃の軽減や、農林水産物などの輸送コスト支援が実現するなど、「奄美と沖縄との連携」が改正奄振法の大きな柱として位置付けられております。
奄美群島の中でも南端に位置する本町は、沖縄との連携を図るうえで地理的・歴史的にも繋がりが深く、まさに沖縄との連携の最前線として好条件にある地域といえます。こうした好機を逃すことなく、今般の奄振法改正による追い風を捉えて両地域間の連携の先駆けとなるべく、沖縄との交流・連携に係る各種の取組をより広範かつ強力に進めてまいります。
令和7年度は私の町長就任から2度目の新年度を迎える年であり、第6次総合振興計画第2期の2年目となります。昨年度には第6次与論町総合振興計画第1期(R4~R5年度)に係る評価及び第2期(R6~R8年度)の実施計画の策定を実施しております。引き続き計画に掲げた将来像の実現に向けて、来たる令和7年度におきましても各施策の推進にあたってまいります。
また、計画期間の満了に伴う第3期となる本町の新たな総合戦略について、その案を本定例会において議案として上程させて頂きました。
今般改訂する新たな総合戦略は、国における「地方創生2.0」の施策と連動しつつ、本町の第6次総合振興計画の内容とも整合性をもった内容となり、本町の人口減少の抑制を図りつつまちの活性化を目指す基本的方策をまとめたものとなっております。
令和7年度においては、総合振興計画及び新しい総合戦略に示す将来像の実現に向けた一歩として、本町が将来にわたり成長を続け、活力に満ちた島づくりを実現するための人材育成施策である「与論島人づくり構想」、通称「与論島アカデミー構想」を、新たに進めてまいります。
これは、地域づくりの根幹をなす人材育成の重要性を鑑み、本町における人づくりをより効果的に推進するために策定したものであります。
本構想の基本理念である「有限の出会いを無限の可能性へ」という考えのもと、本町の抱える地域課題に対し、行政のみならず島内外の民間事業者や、町民の皆さまと連携を深め、志を同じくする皆さまからの新しい感性や大胆な発想アイデアを積極的に取り入れながら、課題解決に向けて地域全体の企画力や実践力、言い換えれば「島のさばくり力」を向上させ、小さな島から果敢に挑戦を重ねていく年としたいと考えております。
令和7年度の各施策について、ここでは大きく3つの構成に分け、それぞれの概要をご説明申し上げることと致します。
第1点目は「未来へ繋ぐ:10年後、飛躍する島づくり」、第2点目が「今を豊かに:安心して暮らせる仕組みづくり」、第3点目が「宝を守る:ここにしかない伝統と自然を次世代に繋ぐ地域づくりと教育の推進」であります。
1 未来へ繋ぐ:10年後、飛躍する島づくり
はじめに「未来へ繋ぐ:10年後、飛躍する島づくり」に係る施策の概要について申し上げます。
(1)子育て政策
喫緊の課題である出生数の増加に向けた対策として、次のとおり出産及び子育て応援施策等の強化に取り組みます。
- 「子ども・子育て支援に特化した行政窓口の創設」
子ども・子育て支援に関する施策の検討及び推進を担う「こども未来課」を創設し、そこに「こども家庭センター」を置くことで、これまでの分散した子ども・子育て行政窓口を一本化し、住民の利便性向上と施策の連携・迅速化を図ります。また、「よろん子育てハンドブック」の配布やオンライン情報提供など、これから子育てを始める若い夫婦を含めた子育て世代への情報提供の充実に努めます。
- 「子どもの社会生活環境の向上」
こども第三の居場所の整備を行うほか、国の事業を活用した子ども食堂支援、県内こども医療費の窓口負担の無償化、町立こども園保育者労働環境改善及び資質向上の支援を行うことで、子どもと保護者の子育て環境の向上を図ります。
- 「若い世代に対するライフデザインへの経済的支援」
所得の少ない若い新婚世帯の新生活を応援し、少子化・子育て対策の一助とするために、引っ越し費用や家賃等の経済的支援を行い、若い世代の結婚や子育てに対する負担感を軽減し、結婚生活や子育てがライフデザインの選択肢となることを推進します。
- 「安心して妊娠出産できる環境づくり」
妊娠期から子育て期において切れ目のない支援を行うため、産前産後サポート事業を実施し、妊娠時、出産時に出産・子育て応援補助金を支給致します。その他にも、島外における妊婦健診・出産の際の宿泊費及び交通費に対する公費助成制度の実施、妊婦健診に対する公費助成の実施、医療支援を必要とする乳児に対する養育医療費の給付や島外での特定不妊治療を受診する際の宿泊費及び交通費に対しての離島地域不妊治療支援事業による公費助成の実施を引続き行います。
2 今を豊かに:安心して暮らせる仕組みづくり
次に「今を豊かに:安心して暮らせる仕組みづくり」について申し上げます。
(1)持続的に稼ぐ島づくり
はじめに「商工・観光分野」として持続可能な観光地づくりに関する諸施策について申し上げます。
まずは、昨年度から引き続き商工業分野における新しい「稼ぐ力」の創出に取り組んでまいります。町内で新しいビジネスチャンスを活かし持続的に稼ぐ力を創出するため、創業支援協議会を通じて、創業前の機運醸成から創業後の経営支援に至るまで一貫して支援可能な体制とし、支援内容の充実を図ることで、本町における新規創業者の確保・育成を行う事業を展開してまいります。
また、ヨロン島観光協会のワンストップ支援体制の強化を図り、商工観光事業者等が安心して特産品開発や販売に取り組める環境を充実させるとともに、飲食店や宿泊施設等における地元産品の利用促進やメニュー開発支援等により観光地としての「食」の魅力化と島内産業への経済波及の最大化に努めます。
さらに、近年、複雑化・多様化する消費トラブルに対応するため、知識と経験を備えた消費生活相談員を継続して配置するとともに、相談員のスキルアップを図り、消費者支援体制の強化に取り組んでまいります。
続いて、観光分野における「持続可能な観光地づくり」に係る諸施策について申し述べます。
本町の自然環境や生活文化、地域経済の持続性に配慮しつつ、ヨロン島観光協会等との緊密な連携のもと、観光を通じた地域経済への波及効果の最大化をめざして令和7年度ではつぎの施策を重点的に推進してまいります。
- 持続可能な観光地経営の推進主体となるヨロン島観光協会の「観光地域づくり法人」(DMO)化に向けた体制強化や運営財源の確保等の重点支援を引き続き実施してまいります。
- JALグループとの連携プロジェクトにより、地域の住民や観光関連事業者における持続可能な観光に関する取り組みの普及推進や、旅行先で訪れた地域の環境や文化等に配慮できる来訪客―いわゆる「責任ある旅行者」の誘客に取り組むほか、地域としての国際認証の取得をめざして取り組んでまいります。
- これまでに引き続き、美しい海や星空の他、食や産業、歴史文化、島人との交流などといった「ありのままの島の日常」を活かした観光コンテンツの造成と運用体制の強化に取り組み、周年を通じた誘客と滞在日数や消費額の増加に努めてまいります。
- サザンクロスセンター及びゆんぬ体験館の展示内容や活用方法について再度検討を実施し、国指定文化財となる与論グスク等の周辺エリアも含む一体的な利活用策を構築することで観光拠点としての魅力向上や機能強化を図り、観光客のみに留まらず地域住民も楽しめるエリアとして利用率の向上を図ります。
また、大金久地区については、周辺エリアの整備計画を検討するとともに、新たに開業する渚の交番「Muuru(ムール)」を核として、国立公園の自然環境や景観、観光客や観光事業者等のエリアマネジメントを担う組織の立ち上げや、指定管理等による民間の活力を活かした魅力と賑わいのある観光拠点の整備に努めてまいります。
- 本年7月に予定されている沖縄県北部の大型テーマパーク「ジャングリア」の開業を見据えつつ、沖縄北部の自治体や交通事業者等との連携を強化・拡充し、広域連携による誘客と効果的な情報発信に努めてまいります。
- 宿泊データ集計分析システム等を活用した観光データの収集・活用のほか、インフルエンサーやリピーターとも連携し効率的・効果的な情報の収集及び発信に努めてまいります。
- 宿泊施設等の観光施設の改修や機能強化に対する支援を行い、観光客の受入体制の充実や高付加価値化に取り組んでまいります。
最後に、持続的な観光の推進に必要な安定財源を確保するため、令和8年度中の「宿泊税」の導入をめざし、引き続き検討を進めるとともに、観光事業者が一体となった「旅先納税」の推進等に取り組んでまいります。
農水産業分野における令和7年度の施策につきましては、商品の高付加価値化及び生産コストの圧縮などによる生産性の向上を図り、農水産業従事者の所得向上に寄与するべく、各種施策の展開・推進を行ってまいります。
- 農業の振興
日本の農業を取り巻く環境は、長引く不安定な世界情勢の影響による燃油・資材価格高騰などの影響により、農業全般における生産コストの上昇に加え、消費や流通が大きな変革を迎える中で、国内農業市場の縮小や人口減少・生産農家の高齢化などを背景とした担い手不足の問題など、我が国のこれからの農業の在り方についても対応が迫られております。
このような中にあって、本町の農業を取り巻く環境は依然として厳しく予断を許さない状況でありますが、国・県への働きかけや連携を強化し、安定産地としてのブランド化、リレー出荷など「競争力のある強い産地づくり」を目標に、さとうきび、畜産、輸送野菜、花き、果樹を重点品目とする複合経営の推進を継続してまいります。
さとうきび振興につきましては、国・県事業を活用した助成事業等により、引き続き増産計画に基づく振興策を進めてまいります。また、農地集積や機械導入支援事業等による経営規模拡大に対する経営基盤強化支援、生産安定対策として積極的な水利用の推進、堆肥を有効活用した土づくり及び適期管理作業の推進により農家の単収向上に努めてまいります。
畜産の振興につきましては、国内の畜産業界全体の厳しい現状として、長引く景気悪化や物価高騰などによる市場需要の低迷による子牛取引価格の下落に加え、飼料や資材、燃油などの生産コスト全般の高騰が続いている状況下にあります。
このような国内状況の影響を受け、各地における畜産農家の経営環境についても依然として厳しい状況が続いている中、本町においては、外海離島という更なる条件不利性も加わることで、二重三重の不利な経営環境に置かれることから農家の生産意欲減退が懸念されております。
このことから低コスト飼料の確保と粗飼料自給率の向上による生産コストの低減、優良繁殖素(もと)牛(うし)の導入による商品性の高い子牛生産による生産性の向上など農家経営の安定化施策と併せて、堆肥舎や環境資材導入助成、敷料供給による畜舎環境の改善等環境に配慮した畜産環境の整備事業等による畜産振興に努めてまいります。
また、耕地面積の少ない本町における農地の有効活用と良質堆肥による土づくりの推進のため、さとうきび作などの耕種農家と連携し耕畜連携の更なる推進に努めます。
園芸の振興につきましては、輸送野菜の生産拡大・品質向上のため、さといも優良種子及び自家(じか)種芋(たねいも)確保対策、トンネル資材、パイプハウス等の園芸施設導入事業を継続するとともに、防風対策のための資材導入や生産関連作業委託費などの一部助成、生産技術及び生産体系確立のための各種講習会や研修会の実施、農林水産物輸送コスト支援事業による輸送費支援等をおこない、園芸農家の経営基盤強化に努めてまいります。
果樹及び特産作物についても、生産振興及び新技術・新品目導入の検討やIPM(総合的病害虫・雑草管理)技術など総合的な病害虫対策をはじめとする諸施策により、持続可能な営農体系の構築を図ってまいります。
- 水産業の振興
本町の水産業は、漁業従事者の高齢化や水産資源の減少などの問題に加え、燃油価格の高騰などを背景として漁業活動に係る経費負担の増大が続いており、漁業従事者の経営が圧迫される状況が長引く課題として存在しております。
これまでに奄振事業を活用した製氷施設の機能強化や、漁獲物の輸送・出荷のためのコンテナを導入し、水産物の安定的な出荷体制の構築に寄与する環境整備を実施しております。
加えて、令和7年度では茶花漁港において漁業従事者の使用する漁船を陸上へ上架・整備する施設の強化改修を実施する予定としており、他地域への回航を余儀なくされていた大型漁船の整備を本町内において実施可能とすることで、安全性及び利便性のある漁業活動が可能となるための環境整備を行ってまいります。
水産資源の持続可能性の確保に係る施策については、これまで継続して実施している国の離島漁業再生支援交付金を活用した事業を推進し、藻場造成など水産資源の回復への取組みを推進してまいります。
水産物の輸送等に係る事業者負担の軽減については、今年度より適用範囲が拡充されました農林水産物等輸送コスト支援事業を新年度においても活用し、輸送・流通経費の負担軽減策を実施することで、漁業者の経営安定及び販路拡大による所得の向上を図ってまいります。
- 地元生産物の域内外での消費拡大策の推進
近年の我が国における国内農水産物の市場価格の上昇及び輸送コストの増大による島外からの移入農水産物の小売価格高騰への対策として、島内で生産される農畜産物等の有効活用を積極的に推進すると共に、消費拡大と「食」を活用した産業の多角化を図り、観光産業等と連携した商品開発に努めてまいります。
また、原料の確保や販路開拓も重要であることから、原料の生産体制強化や市場調査など農商工連携による体制作りに取り組み、農水産物の6次産業化による消費拡大と奄振事業等も活用した特産品開発の促進を図るとともに、特産品開発支援センターでの事業者育成、加工技術の向上に係る研修会の開催等を通じた生産基盤の確立を進めてまいります。
(2)健康づくりの推進
- 「健康づくりの推進」
本町における町民の皆さまの健康づくりにつきましては、健康づくりに関する長期ビジョンである「健康よろん21(第2次与論町民健康づくり計画)」に基づく、各事業・施策の実施を引き続き進めてまいります。
- 「互いに支え合う福祉環境の充実」
本町におきましては、近年高齢化率の上昇が続く傾向にあります。こうした状況の中で高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう、介護や介護予防、生活支援等を包括的に提供する「地域包括ケアシステム」の構築を図るとともに、事業者だけでなく住民等が参画するような多様なサービスの構築に取り組みます。
また、引き続き敬老バス無料乗車券及びタクシー乗車券の支給による高齢者等の交通弱者支援を行ってまいります。
加えて高齢者の保健事業と介護予防等の一体的な事業の実施につきましては、与論町高齢者福祉計画及び第9期介護保険事業計画に基づいて、疾病予防や重症化予防、要介護者等が自分らしく自立した日常生活を送ることができるよう関係機関と連携をとりながら推進してまいります。
(3)くらしを守る対策
- 「水道事業・下水道事業」
水道事業については、人口減少に伴う使用量の減少、老朽施設の更新増加を見越し、公営企業として経営の安定を図るとともに、安全な水道水の安定供給に向けて次のことに取り組んでまいります。
まずは、アセットマネジメント・簡易耐震化診断を基に将来に向けた更新計画の策定を進めます。次に、浄水場の機能維持を図る為にイオン交換膜の洗浄取替、監視システムのクラウド化、淡水化施設の保守点検を行い水質の安定に努めます。さらに、有収率の向上のため流量計を活用した流量調査及び漏水調査を進めながら、建設改良工事による老朽管の更新に努めてまいります。
また、下水道事業については、公営企業として健全な経営を目指すとともに、維持管理適正化計画を活用し、適切な事業運営を行います。排水処理施設の機能強化対策事業による施設機械更新を進めながら、既存施設の点検整備を図り、放流水質の適正管理による環境保全に努めてまいります。
- 「情報提供・情報共有の推進」
現在、町内における行政情報の伝達手段として小組合文書や町広報誌、公式ホームページなどが用いられておりますが、より幅広い方々を対象とした情報アクセス環境の向上について、本町と致しましてもアプリなど新たな媒体を活用した情報発信の検討を行っております。これにより、避難勧告などの緊急情報やイベントの告知、その他緊急のお知らせなどリアルタイムで大勢の方々が即時に必要な情報を取得できるよう取り組んでまいります。
- 「住宅整備の推進」
近年、本町の人口対策や官民各分野における担い手の確保策を進める上での喫緊の課題である住宅不足解消に向けて、町営単独住宅整備や空き家改修事業、住宅整備支援補助事業の継続など、様々な手法を取り入れながら整備を進めてまいります。
- 「防災・災害体制」
令和7年度における災害対策については、各集落における自主防災組織や町内の学校を中心とした津波避難訓練を昨年度に引き続き実施するとともに、津波災害や水害を想定した低地に居住されている要援護者の個別避難に係る各組織の連携体制の強化を進めてまいります。
また、町内最大の指定避難所である砂美地来館につきましては、整備後30年余りが経過しており、避難所としての機能を十分に発揮するために、奄振事業を活用し災害発生時の避難者の収容施設としてしっかりと安全を確保できるよう、施設機能の強化改修を実施してまいります。
併せて、災害により多数の避難者が発生した際に必要となる食料品や各種生活物資の備蓄につきましても、指定避難所を中心として、災害対応用物資の備蓄体制の強化を行ってまいります。
四方を海に囲まれた外海離島である本町においては、沿岸域における海難の発生リスクへの対策も怠ることはできないと考えます。
海難発生時におけるいち早い人命救助を遂行可能とするために、初動対応や官民の各関係機関の連絡・出動体制の強化に係る各種訓練を今年度においても実施していくほか、来訪客や住民の安全な海の利用に寄与する情報提供や啓発活動など、平時における海難防止のための取組を展開するとともに、各組織の連携の要となる水難救済会の組織体制や運営内容の強化も図ってまいります。
こうした、災害への備えに係る各種の施策を進めていくうえで、各組織の連携体制や初動対応の機動性の確保を図っていくためには、各対策の中心となる人材が必要不可欠です。そのため、本町では令和7年度から防災分野における人事体制を見直し、新たに「地域防災マネージャー」の資格を有する人材を「地域防災専門員」として採用し総務企画課に配置する予定としております。
3 宝を守る:ここにしかない伝統と自然を次世代に繋ぐ地域づくりと教育の推進
3点目の「宝を守る:ここにしかない伝統と自然を次世代に繋ぐ地域づくりと教育の推進」について申し上げます。
(1)景観条例の制定
与論町のかけがえのない宝であり、町民が等しく享受する共有の財産である美しい景観を守り、次世代の子ども達に残せるよう、今年度において町内の各関係者や有識者を交えて「与論町景観条例検討委員会」を複数回開催し、与論町景観条例の制定並びに与論町景観計画の策定に向け準備を進めてきたところであります。
当初、令和6年度中の制定を予定しておりましたが、委員会における議論や検討に当初の想定以上の時間を要したため、令和7年度での制定を目指し引き続き作業を進めてまいります。
(2)教育・文化
本町における教育の推進については、我が国における教育に関する各法令・規則や鹿児島県及び本町の教育方針に即しつつ、「あしたをひらく心豊かでたくましい人づくり」を基本目標とし、「個性が輝き 島が輝く 誠の教育」~最南端は最先端~をキャッチフレーズに「夢や希望をもち、粘り強く学び、困難を乗り越えたくましく生きる人間の育成」を目指す教育を推進し、各学校の自主的な教育活動を支援し、最先端の教育の具現化と発信に努めます。
そのための方策として、令和7年度においても引き続き本町における教育関連施策について、教育委員との連携による協議・検討の更なる活性化を図り、「豊かな心と健やかな体を育む教育の推進」「信頼され、地域とともにある学校づくりの推進」、「地域全体で子どもを守り育てる環境づくりの推進」、「生涯にわたって学べる環境づくりとスポーツ・文化の振興」を重点施策として掲げ、教育行政の充実を図ります。
- 社会の変化に対応できる力を育む教育の推進
本町において育つ子どもたちが将来社会を構成するかけがえのない一員として活躍できる力を伸ばしていけるよう、教育環境の整備を図っていく必要があります。そのため、学校教育において子どもたちと主体的・対話的で深い学びが可能な環境を充実させ、基礎学力の確実な習得と、自ら学び、主体的に判断・行動し、問題解決能力や表現力を伸ばす教育のさらなる充実に資する取組を推進してまいります。
とくに、本町における特色ある教育のひとつである海洋教育においては、子どもたちがこども園から小中高まで一貫した教育体制の中で、地域を支える次世代人材として広く活躍できる力を個々の特性を活かして伸ばすことのできる環境の確保が重要であります。
そのために、令和6年度までに取り組まれてきたプログラムをさらに強化し、地域との連携を推進するとともに、子どもたちの非認知能力を伸ばす教育、教育カリキュラムの魅力化など本町の教育環境の更なる拡充に引き続き取り組んでまいります。
また、町内の小・中・高校間のシームレスな学びの接続と、学校・地域との間の連携体制の強化を進めることで、子どもたちが地域から学び続けることのできる探求学習の充実を目指します。
これら海洋教育の推進・拡充に係る各施策の展開により、与論で学ぶ子どもたちの自己肯定感や粘り強さ、地域を愛する心や社会貢献意欲の向上を促進してまいります。
学力面では、個別指導や自主学習の推進を図り、学習指導要領の趣旨に基づく、学びに向かう力の醸成に努めるとともに、デジタル教科書やタブレットを活用し、デジタルの強みを活かして他の様々な教材やソフトウェアと効果的に組み合わせ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図ります。
さらに、家庭学習等、親子の悩み全般に寄り添い、教育委員会として提供可能なサポートやアドバイスを最大限行っていきます。
また、この島の先人たちから継承されてきた伝統文化を尊重し、それらを育んできた郷土の環境や身近な島の暮らしを愛し、誇りに思う心を養うとともに、望ましい勤労観・職業観を身に付けられる教育環境づくりに努めてまいります。
- 信頼される学校づくりの推進
学校教育が十全にその役割を果たすためには、学校に通う子どもやその保護者、地域の方々との緊密な信頼関係が必要不可欠であります。
本町において、皆さまから信頼される学校づくりのために、保護者・地域住民から学校教育に対して幅広く意見を述べることが可能な学校運営協議会制度を新年度から導入し、地域と一体となり開かれた学校づくりを推進します。
また、教職員の資質向上に努め学校運営を充実させると共に、PTA活動の活性化を通して保護者・地域との連携を深め、安全・安心な学校づくりを推進します。
新学校給食センター整備については、建設検討委員会のご意見を基に、基本計画の策定過程において建設場所や整備内容、事業費等を調査し、最適な事業規模により設計業務を進めてまいります。
老朽化が激しい那間小学校校舎については、児童が安心して快適な学校生活がおくれるように、一時使用校舎を整備します。
また、こども園、小学校、中学校、高等学校の緊密な連携の下、幼児教育、学校教育、家庭教育の一貫した体制での教育施策の推進を図るとともに、幼児、児童生徒の健やかな成長を促進するために教育機関のみに留まらず各関係機関とも連携を進めてまいります。
併せて小中学校の児童・生徒数の減少の抑制及び中学校・高等学校における学年2学級維持を図りつつ、一人ひとりの進路実現のために、魅力ある学校づくりの推進、与論町ふるさと留学制度の利用促進等に努めます。
- 地域全体で子どもを守り育てる環境づくりの推進
人づくりは、家庭はもとより、地域が担う役割が大きいものです。子どもを「島の宝」として地域で育てる風土を生かし、スポーツ、文化活動等にかかわる関係団体・機関、連盟、PTA・子ども会活動の活性化と充実を図り、体育・スポーツ、伝統・文化的な地域行事を通して、地域全体で子どもを守り育てるための取組を推進します。
そのひとつとして、県内でも先駆的な取組として注目されている、与論中学校の部活動の地域展開を一層充実し、学校と地域が連携したスポーツ環境・文化芸術環境づくりを進めます。
- 生涯にわたって学べる環境づくりとスポーツ・文化の振興
町民が自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、生涯にわたって、あらゆる機会にあらゆる場所でスポーツや文化等について学べる環境づくりを目指します。
併せて、郷土の伝統文化や文化財を守り育て、様々な芸術に親しむことは、豊かな心の育成や地域創造につながります。
令和6年度末をもって中央公民館が閉館となりますが、学びや体験、交流の場が途切れることのないよう、公民館教室を含めこれまで中央公民館において提供されていた機能は各種公共施設や自治公民館等に分散させるなど、活動拠点を地域に移し、施設の有効活用や集落の活性化への期待も含め、更なる伝統・芸能・文化活動の推進、充実に努めてまいります。
与論城跡の国史跡指定に向けた取り組みについては、これまでの調査成果が認められ、国の文化審議会から文部科学大臣へ、新たに国の史跡に指定するよう答申が行われております。この他にも島内に存在する多くの文化財について、調査・記録・保存に取り組んでまいります。
予算の編成
次に、各施策実施の裏付けとなる令和7年度予算について概要をご説明致します。
本町の令和7年度一般会計当初予算につきましては、子ども・子育て関連事業の拡充、耕地災害対策事業による措置、非常備消防における10トンタンク車の購入費などを盛り込んだ予算編成となり、対前年度比8.9%増の歳入歳出55億8,660万円を計上しております。
また、特別会計については、国民健康保険(事業勘定)事業、と畜場、介護保険事業、後期高齢者医療事業の合計で、前年度比5.3%増の16億7,977万3千円となっております。
水道事業会計については、前年度比7.1%増の1億8,432万1千円、下水道事業会計が5,466万7千円となっております。
これら一般会計、特別会計、企業会計を合わせた予算総額は75億536万1千円で前年度に比べて8.0%の増額となっております。
なお、予算編成の過程で生じた財源不足については、財政調整基金から3億2,814万8千円を繰入れております。
むすびに
以上、令和7年度の主な施策の概要等について申し上げました。
本方針の冒頭において申し上げましたとおり、令和7年度においては第6次与論町総合振興計画及び第3期与論町総合戦略に掲げた将来像及び人口ビジョンの実現に向け、各般における施策を着実に推進してまいります。
そして、訪れる場所、住む場所、働く場所、帰る場所、子どもを育てる場所、挑戦する場所として、様々な皆さまから「選ばれる」与論島となるべく、将来に繋がる持続的な発展の嚆矢となる島づくりに引き続き取り組んでまいります。
これらの施策は、私共行政のみによって結実するものではなく、議会をはじめ、町民の皆さま方のご理解とご協力が不可欠であります。
議会の皆さま、そして町民の皆さまに対しまして、今一度本町の行政運営へのご理解とご指導・ご鞭撻を心よりお願いを申し上げまして、令和7年度の施政方針とさせて頂きます。